Lecture & Concert Schedule

会場:明星大学28号館1階スタジオ(19号館201室:レクチャー、基調講演)
日程:2018年3月3日(土)14:00-17:30

 

コンサート 1 14:00-

1-1.プレトーク:作曲家3人による曲紹介とプチディスカッション

1-2.演奏

 横山 真男 (Masao Yokoyama) 「Brain Motion」 尺八+チェロ+パフォーマンス

 八木澤 桂介 (Keisuke Yagisawa)「消去、情景、音景 Erased, sight and sound」 オーディオビジュアル
 平山 晴花 (Haruka Hirayama) 「Capriccio」 ホルン+ライブエレクトロニクス   (ビデオ・コラボレーション 宮本貴史)

 

レクチャー&コンサート 15:00~(19-201教室)

2-1.菅野 由弘 (Yoshihiro Kanno)「天使の梯子ー電子音楽の聴き方入門」

「天使の梯子」って何? コンピュータによる、リアルタイム・プロセッシングを伴うピアノ曲です。何、それ?
そもそも、ピアノ曲にコンピュータが何をするつもり?
鍵盤を弾くと、ピアノから音が出ます。その音を、その場で、同時にコンピュータで変化させると、別な世界が拓けます。

その不思議な音の仕組みを聴いて頂きます。

 

コンサート 2 16:30-

3-1.プレトーク:作曲家3人による曲紹介とプチディスカッション

3-2.演奏

 渡邊裕美 (Hiromi Watanabe)「Femmes damnees」 ソプラノ+エレクトロニクス+ビデオ

 川上統 (Osamu Kawakami)「Black Ghost」「Vine Snake」 マンドリン

 仲井 朋子 (Tomoko Nakai) 「六つのし角」二胡+ライブエレクトロニクス

 

プログラムノート  Program Note

菅野由弘(Yoshihiro Kanno)「天使の梯子」 ピアノとコンピュータのための 

天使の梯子は、厚い雲の切れ間から、光の筋が何本も降りてくる光景をいう。光が降りてくる。が、私の中では、光の帯を昇ってゆく感覚がある。ピアノに託された言葉を、コンピュータ処理された音響が立ち昇らせる姿を想像しつつ作曲の筆を進めた。

また、大竹紀子の長年の研究課題である武満徹氏が亡くなって10年目に当たることから、氏の音楽の引用を試みた。氏の「波の盆」というテレビドラマの音楽がある。その録音に私はシンセサイザー奏者として参加し、録音のあと、いくつかの音を加工するために、一晩中付き合わせていただいた。1983年頃は、今のように小回りの利くコンピュータはなく、シンセサイザーのリングモジュレーターと、フィルター、レゾネーターなどによる音の加工だったが、リングモジュレーターによって、やや狂気に満ちた音が出ると、非常に嬉しそうな顔をされたことを、はっきり覚えている。今回この曲では、武満徹の音楽の引用部分は、リングモジュレーターを中心とした音の加工をリアルタイムで行っている。かつては手動で、ほとんど一音一音加工していたことが、今は、リアルタイムで同時にできる。そうして出来た「やや狂気に満ちた音色」が、光のカーテンを昇ってゆく。

「天使の梯子」をピアノが昇る。その向こう側には---。(初演プログラムノートより)

 

横山 真男 (Masao Yokoyama) 「Brain Motion」 尺八+チェロ+パフォーマンス

舞台の黒ずくめのパフォーマーが、なんか動く。すると、彼のアタマは脳波計で計測されているので、その瞬間の状態が音符と映像になって時々刻々と表現される…これが、曲のざっくりとした基本的な仕掛けです。Processingでプログラミングされた計算によりα、β、γ、δ、θの各脳波を映像と楽譜にリアルタイムで変換します。

パフォーマーの脳波は舞台上でおかれた状況に応じて電気信号のパワーとして脳波計で計測されます。その脳波のパワーとリラックス度から音符のピッチ、長さ、音量がリアルタイムで計算され、Max /MSPのbachライブラリを通じて二重奏の楽譜となります。同時に、リラックスと興奮、緊張といったパフォーマーの状態は森、山、水や花火、泳ぎ回る魚、風といったCG映像として表されます。ということで、どんな楽譜や映像が生成されるかは、パフォーマーのアタマ次第…。「科学派」と呼んでしまえばよいのかわかりませんが、数理や科学技術をベースにした音楽といえます。

本作品は2017年上海で行われたInternational Computer Music Association(ICMC 2017)にて平山氏と共同発表した作品のリメイク版です。今回は、ライブエレクトロニクスの代わりに、尺八とチェロの二重奏によるアコースティック作品に、また映像と楽譜の生成手法、ストーリーも改良版となっています。また、作品が単なる可視化と可聴化の科学的分析ツールになってはつまらないので、それにひと味スパイスを加えた演出を試みました。どうなるかは、見て聞いてからのお楽しみにさせてください。演じるパフォーマーも演奏者も、聞く方だってどうなるかハラハラ、ドキドキ。そんなチャンス・オペレーションの世界をお楽しみください。 なお、本日のパフォーマンスは本学学生の強矢将希、遠野大輔が行います。

 

八木澤 桂介 (Keisuke Yagisawa)「消去、情景、音景 Erased, sight and sound」 オーディオビジュアル

この作品は、とても静かな映像作品です。スクリーンには、細かな線が集まりながら抽象的な形が描画され、かすかな色と共に、少しずつ、少しずつ、変化していきます。

会場に設置された四方向のスピーカーからは、思わず聞き耳を立ててしまうほどの小さなノイズが、静かに聴こえてきます。

一見、それら音と映像は、なんの関わりもありませんし、まるで始まりも終わりも無いかのように、淡々と流れているだけですが・・・・

そんな、関係の無い二つの事柄を観ているうちに、何かしらの意味が生まれるんじゃないだろうか?そんなことを考えて作られた作品です。

 

平山 晴花 (Haruka Hirayama) 「Capriccio」 ホルン+ライブエレクトロニクス   (ビデオ・コラボレーション 宮本貴史)

Capriccioとは、日本語では奇想曲と訳せます。この作品では、ホルンという楽器/物体をさまざまな角度から眺めながらそれが持つ多様な音の像を発見しつつ、さらにそれらを統合していくことで、「ホルン」の新たなかたちの創造、または音による新たな形象化を試みています。言い換えれば、同じ被写体を異なるメディアで捉え直し、それらをモンタージュすることによって、ホルンという楽器について探求しています。具体的には、慣習的なホルンの奏法によって出される音とは異なる音(例えば、菅に水を入れて吹く音、ベル部を濡れた手で擦る音、破裂音のような音など)を録音、収集し、それを基に構成された音と、ライブにおけるホルンという楽器の演奏(ここではむしろ慣習的な奏法による)、そして音響処理されたそれらの音を一体化させることでアプローチしています。
今回のパフォーマンスでは、作曲家でマルチメディア作家、VJとしても活躍する宮本貴史氏とコラボレートします。上記のような手法によってクロスメディアに統合化されたホルンの音を、さらにリアルタイムに映像化するというプロセスは、ホルンという物体を俯瞰するのに新たな視点を付加します。そして、それはどのような視点であり、また、もし音との間に補完的関係を築くことが可能であるとすれば、それがどのようなものであるのか、ということに着目し、今後の創作研究につなげていきたと考えています。

 

渡邊裕美 (Hiromi Watanabe)「Femmes damnees」 ソプラノ+エレクトロニクス+ビデオ

ボードレールの詩集『悪の華』に収められた一遍「地獄に落ちた女たち」によるソプラノのためのミクスト作品。詩は現実の女を謳ったものというよりは、詩人の妄想のなかでのレズビアンに対する憧れを、ある意味陳腐なくらい理想化されたイメージで描いたものです。それだけに、表現される世界はただただ美しく、退廃的でもあります。下行音型やグリッサンドを歌い上げるソプラノの声は、常に宗教的な悪や背徳感といった負の感情を想起させるような存在であり、それに付随する電子音響は、主に声の「異化」によって、つまり音の色彩変化や時間的なズレによって生成された耽美で重層的なサウンドを聴かせます。この甘美な背徳感に満ちた音響は、幾何曲線の一種である薔薇曲線によって空間投影の軌跡をコントロールされながら観客の周りを包み込みます。愛に纏わる花言葉を持つのが薔薇です。

 
川上統 (Osamu Kawakami)「Black Ghost」「Vine Snake」  マンドリン

ブラックゴースト Black Ghost for mandolin solo (2014)
南米に生息する40cm程の大きさの魚、ブラックゴーストです。デンキウナギと近縁であり微弱ながら電気を発生させる事ができます。長く細い体と波打つ長い尻鰭をなびかせ、魚とは思えない縦横無尽な泳ぎ方をします。電気を発生させつつせわしなく泳ぎ回るその独特な姿に対して、電撃のように強く奏でるマンドリンの音を重ね合わせました。実際にブラックゴースト(夜行性)の泳いでいる様を見ると、なかなかの挙動不審な動き方にびっくりするのですが、そのような感じが出ていたら幸いです。

ヴァインスネーク Vine Snake for mandolin solo (2018 初演)
日本語でムチヘビという名前の蛇。こちらは名前の通り鞭のように細長い姿と顔をしており、英名の葡萄の枝に擬態しているかの如く、クネっと曲がった姿のまま体を固定させて獲物を待ちます。その状態でまるで風に揺られた枝茎の如くおよそ動物とは思えない幾何学的な揺れ動き方をして、獲物を捕らえる時も極めて俊敏という特徴を持っています。そして形容し難いのですが、それでいてとても直線的な動きとフォルムをしているのです。兼ねてからマンドリンの持つ音は直線的ながら復弦の持つ素晴らしい不定形さを含んでいると思っておりまして、このマンドリンの音をトリルやチョーキングを用いてムチヘビの動きのような音楽が出来ないだろうかと考えて作りました。

 

仲井 朋子 (Tomoko Nakai) 「六つのし角」二胡+ライブエレクトロニクス

二胡のために作曲したこの作品は演奏中、スピーカーからも同時に電子音響が聴こえてきます。電子音響パートはあらかじめ制作してあるのかというとそうではなく、演奏中に二胡にマイクを立て、コンピュータに録りこみながら作られて行きます。つまり電子音響パートもすべて二胡の音から出来ているのです。具体的には、Cycling’74からリリースされているMax7というプログラミング環境を使い、作品テーマに沿った音響がその場で生成されるようなプログラムを書いています。そして演奏者を中心に視た六方向(視角)に描かれる音響と、六方面に拡散(四角)される音響が緩やかに推移し合うことで、徐々に楽曲全体が形成されていくように設計しました。
ライブエレクトロニクスという手法は、個人的には大学時代の研究テーマでしたので久々にこの手法で作曲してみましたが、コンピュータやスマートフォンが身近な方々には一体どのように伝わるのか、とても興味深い機会となりそうです。